「字間を詰めるのが今っぽい」は、本当でしょうか。
この記事の目次
秋のご案内を作られた方から、こんなご相談をいただくことがあります。
「デザインの本に、今は文字と文字の間を詰めるのがスタイリッシュだと書いてあったので、思い切って全部詰めてみたんです」
見出しも、本文も、お店の住所も。ぜんぶきゅっと詰めて、ご自身では「たしかに垢抜けた」と思われたそうです。ところが刷り上がったものを常連のお客様にお見せしたら、少し眉を寄せてこう言われました。
「素敵なんだけど……ちょっと読みにくいわね」
素敵と読みにくいが、同じ紙の上に同居してしまった。この行き違いは、実はとてもよく起こります。そして、流行が間違っていたわけでもないのです。流行が語られていた場所と、その方が使った場所が、違っただけでした。
「詰めると引き締まる」は、大きな見出しの話
まず、流行そのものは確かにあります。
欧文の大きな見出し、とくにロゴやトップページの一言のような、うんと大きく見せる文字では、標準より1〜2パーセントほど詰めるのが、ここ数年の定番になっています。ごくわずかな調整ですが、文字の並びが一本の塊として立ち上がり、引き締まって見える。自信のある佇まいになる、と言われます。お使いの道具では「文字間隔」「字送り」といった名前で出てくる設定です。
ここで見落とされやすいのが、条件のほうです。
大きいこと。見出しであること。そして欧文であること。この三つが揃った場所での話なのです。大きな文字は、もともと文字と文字の間が広く見えすぎる傾向があると言われています。だから少し詰めて、ちょうどよく戻している。つまり「詰める」は、流行というより、大きくしたことの後始末に近い調整だと考えると腑に落ちます。
本文まで詰めると、かえって読みにくくなります
同じことを本文でやると、逆に働きます。
文字と文字の間が狭くなると、一つひとつの文字の輪郭が隣とくっついて、単語や文節のまとまりが読み取りにくくなります。読む人はどこで区切ればよいのか分からず、目に負担がかかります。長い文章ほど、その疲れは積み重なっていきます。
スマートフォンでは、もう一つ困ったことが起きます。指です。
詰まったリンクやボタンは、押したいところの隣を押してしまいやすくなります。ご予約のボタンを押したつもりが、その下の別のページに飛んでしまった。お客様はもう一度戻ってくださるとは限りません。見た目の話だと思っていたものが、気づかないうちに機会そのものを取りこぼしていることがあるのです。
自分の画面で整って見えても、相手の画面では違います
もう一つ、詰めた文字には気をつけたい性質があります。
環境によって、見え方が変わるのです。Mac で確認して「ちょうどいい」と感じた詰め具合が、Windows のパソコンで開くと文字同士が潰れて読みにくくなっている、ということが起こります。使われている文字の形や、画面に描き出す仕組みが少しずつ違うためです。
ぎりぎりまで攻めた設定ほど、この差が表に出ます。余裕を持たせた設定なら、多少環境が変わっても崩れません。自分の画面だけを見て決めない、というのは、詰める話にかぎらず、作り手側がいちばん忘れやすいところかもしれません。
日本語は、もともと詰まっています
そして、いちばんの分かれ道がここです。
日本語の文字は、欧文とは事情が違います。和文は一文字ずつが同じ幅の四角におさまっていて、それをすき間なく並べた状態——「ベタ組み」と呼ばれます——が、そもそもの基準になっています。つまり日本語は、すき間ゼロがはじめからの基準なのです。欧文のように「標準からどれだけ詰めるか」を考える余地が、そもそも用意されていません。
その状態からさらに詰めると、何が起きるか。文字が窮屈になり、濁点や小さな「っ」が隣に食い込んで見え、とくに年配の方には読みにくくなります。お客様の年齢層が上のお仕事では、ここは慎重にしたいところです。
むしろ日本語の見出しは、ほんの少し開けたほうが、落ち着いて上品に見える場合が多いように思います。和の設えや、ゆっくりお過ごしいただく場所のご案内なら、なおさらです。詰めると鋭くなり、開けると静かになる。日本語では、その静かさのほうが似合う場面が多いのです。
字間より先に、効くものがあります
読みやすさを本当に動かすのは、実は字間ではありません。
行と行の間、文字そのものの大きさ、そして余白。この三つのほうが、読みやすさへの効きめはずっと大きいと言われています。字間をどれだけ調整しても、行間が詰まっていれば読みにくいままです。逆に、行間と文字の大きさに余裕があれば、字間は初期設定のままでも十分に読みやすくなります。
デジタル庁が公開しているデザインの指針でも、読みやすさを支えるものとして文字の大きさや行間が細かく定められています。そして広く使われているアクセシビリティの基準では、読む側が自分の手元で文字の間隔を広げたときに、文字が切れたり重なったりしないことが求められています。読みにくいと感じた方がご自分で広げられる——その逃げ道を塞いでしまう作り方は、避けたほうがよい、ということです。
三つの線引きと、確かめ方
長くなりましたので、持ち帰っていただける形にまとめます。
・見出しは、ほんの少しだけ詰めてよい(欧文の大きな見出しに限る。やりすぎない) ・本文は触らない(初期設定のままがいちばん読みやすい場合が多い) ・日本語の見出しは、むしろ開けぎみに(そのほうが上品に見えます)
そして、確かめ方を三つ。
一つ、スマートフォンで見ること。パソコンで整って見えても、小さな画面では別物です。二つ、できれば Windows のパソコンでも開いてみること。ご家族やお知り合いの画面を一度借りるだけで十分です。三つ、年配の方に読んでいただくこと。「読みやすい?」ではなく「ここ、なんて書いてある?」と尋ねると、本当のところが分かります。紙のご案内なら、画面で確かめず、必ず一枚刷ってから見ること。画面の中の文字と、紙に乗った文字は、詰まり方の見え方がまるで違います。
流行は、それが生まれた場所では正しいものです。けれど、あなたのお仕事の紙面や画面が、その場所と同じとは限りません。
お客様に届くかどうか。決める物差しは、いつもそれひとつで足ります。
Mirais のテンプレートは、文字の大きさと行と行の間を、日本語で長く読んでも疲れないところに合わせてあります。この記事でいちばん効くと申し上げた二つです。そのままお使いいただく分には、迷っていただく場面はほとんどないはずです。
Mirais チーム/デザインの担当